粉体シミュレーションの世界には、研究機関が開発したオープンソースのツールがいくつか存在します。
これらは無料で使えますが、「無料だから気軽に使える」とはかならずしも言えません。

この記事では、現在利用できる主なフリー/オープンソースツールを網羅的に紹介したうえで、
「それでも有料ソフトが選ばれる理由」と「どういう場合にどちらを選ぶべきか」を整理します。


粉体シミュレーションの主な手法をおさらい

ソフトを比べる前に、まず「何をシミュレーションしているのか」を押さえておきましょう。

粉体シミュレーションでもっともよく使われる手法は DEM(離散要素法、Discrete Element Method) です。
粉の粒子一粒一粒を別々の物体として扱い、粒子どうしの衝突・摩擦・付着などを計算します。

さらに、粉体と気体・液体が絡み合う現象(例:スプレー乾燥、流動層)を扱う場合は DEM-CFD(DEMと流体解析の組み合わせ) が必要になります。

これからご紹介するフリーソフトは主にDEMに対応しており、DEM-CFDはやや高度な組み合わせが必要です。

主なフリー/オープンソースツール一覧

1. LIGGGHTS(ライツ)

もっとも広く使われているオープンソースDEMツールのひとつです。もともとLAMMPSと呼ばれる分子動力学シミュレーションコードを粉体・粒体向けに拡張したものです(*1)。大量の粒子を後続に計算できるという強みがございます。研究論文でも頻繁に引用されており、学術的な信頼性は高いです。

主な特徴

  • 無料・オープンソース
  • OpenFOAMと組み合わせたCFDEM(DEM-CFD連成)も可能

難易度と注意点
操作はすべてコマンドライン(テキストの命令文)で行います。GUIがないため、シミュレーションの設定も結果の確認も、すべてテキストファイルやスクリプトで行う必要があります。また綺麗なグラフィックを表示する機能はないため、可視化には他ソフトが必要です。

向いている人
Linuxの操作に慣れている、プログラミングができる、計算科学や研究が目的

2. OpenFOAM + CFDEMcoupling

概要
OpenFOAMはオープンソースのCFD(流体解析)ソルバーで、これを最初にご紹介したLIGGGHTSと組み合わせた構成です。LIGGGHTS単体では粒子だけのシミュレーションでしたが、これに流体の動きを加えることで、粉体と流体の連成シミュレーション(DEM-CFD)がフリーで実現できます。

主な特徴

  • 無料・オープンソース
  • DEM-CFD連成が可能(気流中の粉体挙動など)
  • 大学・研究機関での採用実績が豊富

難易度と注意点
かなり高度です。OpenFOAMだけでもLinuxの深い知識が必要ですが、LIGGGHTSとの連成設定はさらに複雑です。それぞれのソフトの「特定のバージョン同士」でないと動かないといった互換性の問題があり、セットアップだけで数週間かかることもあります。また、流体メッシュと粒子径のバランスなど、マルチフィジックス特有の理論的知識がないと、計算がすぐに発散(エラー終了)します。

向いている人
CFD・DEMを専門とする研究者、Linux・HPC環境に慣れたエンジニア

「フリーだから気軽に始めよう」と思って挫折する方が多いツールのひとつです。

3. YADE(ヤーデ)

概要
C++とPythonで実装されたオープンソースのDEMフレームワークです。Pythonが書けない方には難しいですが、コマンドで設定を行う先ほどのLIGGGHTSと比較すると、条件設定の柔軟性と拡張性が高いです。

主な特徴

  • 無料・オープンソース
  • Pythonスクリプトでシミュレーションを定義できる柔軟性が高い
  • 粒子生成から計算・後処理まで一体的に扱える

難易度と注意点
シミュレーションの設定をPythonスクリプトで書く必要があります。ドキュメントは英語が中心で、日本語のサポートや情報はほとんどありません。

向いている人
Pythonが書ける研究者、独自の物理モデルを実装したい方

研究の柔軟性は高いですが、業務用途で安定して使うにはPythonのプログラミングスキルが必須です。

4. MercuryDPM(マーキュリーDPM)

概要
オランダのトゥウェンテ(Twente)大学を中心に開発されているオープンソースのDEMフレームワークです(*2)。粉体力学の基礎研究に特化しており、個々の粒子の挙動から、粉体全体の応力や密度を計算・抽出する機能を備えているのが最大の特徴です。

主な特徴

  • 無料・オープンソース(学術利用は無料、ビジネス利用はライセンス確認推奨)
  • 複雑な壁形状や境界条件定義の柔軟性が高い
  • 「統計・平均化(Coarsening)ツール」を内蔵しており、粉体のマクロな物理量を算出しやすい

難易度と注意点
シミュレーションの構築には、C++のプログラミング知識とコンパイル環境が必須です。日本語の情報はほぼ皆無であり、英語のドキュメントや公式フォーラムを自力で読み解く根気が必要です。国内のユーザー数はLIGGGHTSやYADEよりもさらに少ないです。

向いている人
C++が書ける人、英語圏の研究コミュニティと繋がっている研究者、高度な分析を行っている研究者

フリーソフトを使う際の「共通の壁」

上記のツールを見ていくと、フリーソフトには共通した特徴があることに気づきます。

課題具体的な内容
GUIがないほとんどがコマンドラインやスクリプト操作。
直感的な操作画面はない。
日本語情報が少ない英語のドキュメントやフォーラムが中心。
サポートがない困ったときに聞ける窓口がない。
コミュニティへの参加が前提。
環境構築が大変インストールだけで数日~数週間かかることもある。
可視化に別ツールが必要別途可視化ソフトを習得する必要がある。
流体との連成は特に高難度複数ツールの組み合わせが必要で、設定が複雑。
マルチフィジックス特有の知識が必要。

つまり、フリーソフトで粉体シミュレーションをするには、シミュレーションそのものの知識に加えて、Linuxやプログラミングのスキルの習得が必要ということです。

では、有料ソフトは何が違うのか?

有料の粉体シミュレーションソフトは、上記の「共通の壁」をまとめて解決しています。

有料ソフトが提供するもの

  • 直感的なGUI:画面を見ながら直観的に操作できる
  • 日本語サポート(国産ソフト):困ったときに相談できる窓口がある
  • ワンソフトで完結:前処理・計算・可視化がひとつのソフトで完結
  • 検証済みの物理モデル:精度の信頼性が担保されている
  • トレーニング・サポート:使い方を教えてもらえる

フリーソフトと有料ソフトの差は、一言で言えば「計算エンジンの有無」ではなく
普段の業務の中でシミュレーションを回せる環境がすでに整っているかどうか」です。

フリーか有料か——どちらを選ぶべきか?

以下を参考に判断してみてください。

フリーソフトが向いているケース有料ソフトが向いているケース
・大学・研究機関での学術研究が目的
・ Linuxやプログラミング(Python、C++)のスキルがある
・計算コードそのものを改変・拡張したい
・コストをかけられない事情がある
・とにかく「現象・仕組みを理解したい」という目的
・製造業の現場で業務として使いたい
・プログラミングのスキルがない、学ぶ時間がない
・早く結果を出す必要がある
・計算結果の信頼性・再現性が業務上重要
・日本語でのサポートが必要
・DEM-CFDなど複合的な解析をしたい

有料ソフトの選択肢:iGRAF(アイグラフ)とは

ここからは、有料ソフトの選択肢として iGRAF(アイグラフ) を紹介します。
iGRAFは、株式会社構造計画研究所(KKE)が開発・販売する粉体・混相流シミュレーションソフトウェアです。

iGRAFの3つの大きな特徴

iGRAFの三つの特徴。① 実機スケールのシミュレーションを実現② CFDソルバー内蔵によりDEM-CFD連成が簡単に実現③ 使いやすさへのこだわり

① 実機スケールのシミュレーションを実現

実際の製造現場で扱う粒子数は、億から兆のオーダーに達することがほとんどです。iGRAFでは、学術界で検証された「粗視化モデル」を採用することで計算負荷を大幅に軽減。大規模な実機スケールのシミュレーションを実現しています。

② CFDソルバー内蔵によりDEM-CFD連成が簡単に実現

iGRAFの最大の特長のひとつが、CFD(流体解析)のソルバーをソフト内に内蔵している点です。フリーのDEM-CFD環境(LIGGGHTS + OpenFOAM など)では複数ツールの連携が必要ですが、iGRAFではDEMと CFDの連成計算がひとつのソフトでシームレスに実行できます。非ニュートン流体、高粘性流体、自由表面など、流体専用ソフトに遜色ない流体解析機能も備えています。

③ 使いやすさへのこだわり

「これからシミュレーションを始める方にも使いやすい設計を追求している」というのがiGRAFの開発方針です。
具体的には:

  • 推奨値計算機能:ばね定数や時間刻みといった専門的な値の推奨値計算がワンクリックで可能
  • メッシュ不要の形状認識:CAD形状をそのまま扱える
  • 混合度の簡単出力:混合プロセスの評価指標を簡単に取得

iGRAFが選ばれている業界

iGRAFが選ばれている業界

iGRAFは、以下のような幅広い業界・用途で導入されています。

  • 製薬:造粒、混合、打錠、コーティングプロセスの検討
  • 電池材料:電極スラリーの混練・塗工シミュレーション
  • 化学・素材:粉体搬送、ふるい分け、充填の最適化
  • 食品:粉体混合プロセスの均一性評価、空気による搬送プロセスの検討
  • 機械・設備メーカー:ホッパー・フィーダー・ミキサー等の設計支援

粉体シミュレーションの第一人者が技術顧問

iGRAFには、東京大学大学院の酒井幹夫教授が特別技術顧問として参画しています。
酒井先生は粉体・混相流シミュレーション分野の国際的な権威で、粗視化DEMモデルや
DEM-CFD手法の研究をリードしてきた研究者です。学術的に検証された最先端の物理モデルがiGRAFに実装されており、計算結果の信頼性の根拠となっています。

東京大学大学院酒井幹夫教授
東京大学
酒井幹夫教授

フリーか、有料か、よりシミュレーションの
「目的に合っているか」が大事

最後に整理します。
粉体シミュレーションのフリーソフト(LIGGGHTS、YADE、OpenFOAMなど)は、確かに存在します。
コストをかけずにDEMを学べる貴重なリソースです。ただし、それらを使いこなすには相応のスキルと時間が必要で、業務での利用を考えると「無料だから得」とは単純に言えません。

「実際の現場でシミュレーションを業務に使いたい」「日本語サポート込みで安心して使いたい」「DEM-CFDもカバーしたい」という方には、iGRAFのような有料ソフトが現実的な選択肢です。

iGRAFにご興味のある方は下記より資料請求や導入相談をお気軽にどうぞ。

■ 粉体シミュレーションソフト「iGRAF」の詳細はこちら
https://igraf-kke.com/software/
https://www.sbd.jp/products/powder/igraf.html(外部サイトへ)

■無料トライアルのご相談はこちら
https://igraf-kke.com/contact-us/

【参考文献】
YADE 公式ドキュメント
https://yade-dem.org/doc/
MercuryDPM 公式サイト
https://www.mercurydpm.org/
CFDEMcoupling 公式サイト
https://www.cfdem.com/liggghts-open-source-discrete-element-method-particle-simulation-code