粉体シミュレーションの活用の仕方がわかる!そもそも粉体シミュレーションを現場でどうやって活用すればいいの?

粉体シミュレーション実現場でどう活かすか?

粉体シミュレーションソフトをご存じですか。粉体シミュレーションは一般にDEM(離散要素法)という手法に基づいて、固体粒子の集合体である粉体の挙動を解く仮想空間上でのシミュレーションです。
そんな粉体シミュレーションを産業の「現場で活かす」ための考え方と、開発プロセスに組み込む具体的な2つの活用パターンをシミュレーションがはじめての方にもわかりやすいようにご紹介します。


そもそも粉体シミュレーション(DEM)とは?(超入門)

まず前提だけ、かんたんに押さえておきましょう。

先にも述べましたが、そもそも粉体シミュレーションとは、粉や粒の一粒一粒の動きをコンピュータの中で再現する技術 です。その中核となる計算手法が DEM(離散要素法) です。水や空気のように「ひとつながりの塊」(連続体)として扱うのではなく、砂粒のように無数の独立した粒として、一粒ずつの動きを追いかけます。また追いかける際にはみなさんも高校の物理・物理基礎で習った運動方程式を解いています。

粒同士がぶつかる力は、バネとダンパーの組み合わせで表現され、これはDEMが提案された当初(Cundall & Strack, 1979)から続く基本的な考え方です。空気や液体の流れと組み合わせる CFD-DEM連成 に発展させれば、気流搬送や固液撹拌のような「粉+流体(気体/液体)」の現象も扱えます。

技術的な仕組みをもう少し詳しく知りたい方は別記事で解説していますが、ここでは 「実験では見えない粉の動きを定量評価・比較評価できる技術」 と捉えておけば十分です。本題は、この技術を実現場でどう使うか、です。

なぜ今シミュレーションの「現場活用」が求められているのか

粉体シミュレーションだけでなく、シミュレーションが注目される背景には、モノづくりを取り巻く環境の変化があります。

いま製造業の多くの現場で、要求仕様の高度化(性能だけでなく環境配慮も求められる)、製品サイクルの短縮(短期間で製品化し、短期間での改良が求められる)、人材の流動化(終身雇用から、転職・退職が当たり前へ)という3つの変化が同時に進んでいます。

この変化が、現場に見過ごせないリスクを生みます。長年の経験で培われた熟練者の判断が 「暗黙知」のままブラックボックス化 し、その人が退職・転職すると、ノウハウが一瞬で失われてしまう──いわゆる 技術継承の断絶 です。

ここでシミュレーションが力を発揮します。シミュレーションを使えば、熟練者の勘に頼っていた判断を 「理論とデータに基づく、誰にでもわかる判断基準(形式知)」 に変換できます。つまり、個人の頭の中にあった知恵を 組織の資産 として残せるのです。これが、モノづくりにおけるシミュレーションの本質的な価値です。

この流れの先にある「生成AI × 貯めたデータ」

ここまで、シミュレーションが「熟練者の勘(暗黙知)」を「データに基づく判断基準(形式知)」に変える技術だとお伝えしてきました。この流れの先にあるのが、今話題の生成AIとの組み合わせです。

シミュレーションを繰り返し、外乱などのゆらぎのない仮想空間上で「どんな装置形状・運転条件・物性条件だと、どんなシミュレーション結果(偏析の起きやすさ、混合の均一さなど)になるか」を対応づけたデータが、社内にどんどん貯まっていきます。これまでは、この貯めたデータを読み解くこと自体に専門知識が必要でした。

しかし今後は、この蓄積データに対して生成AIに言葉で質問すれば、データを根拠にした答えが返ってくる、という使い方が現実味を帯びてきています。たとえば――

  • 経験の浅い担当者が「この粉を、この形状のホッパーで扱うと偏析は起きやすい?」と聞くと、AIが過去の解析データを踏まえて「類似の条件では偏析が出やすい傾向があります。対策としては……」とデータに基づいて答えてくれる。
  • 「昨年うまくいった混合条件に近いものは?」と聞けば、蓄積された結果の中から根拠つきで探し出してくれる。

これはまさに、本記事でお伝えしてきた技術継承の新しいかたちです。ベテランの判断が「データ+AIが答えてくれる仕組み」として残れば、担当者が退職・転職しても、その知恵は組織に残り続けます。個人の頭の中にあったノウハウが、誰でも呼び出せる組織の資産になるのです。

ただし、この未来を支えるのは、あくまで信頼できるシミュレーションデータの蓄積です。生成AIは、良質なデータがあってはじめて的確に答えられます。また、AIの答えが常に正しいとは限らないため、最終判断は人が行うことが前提です。まずは現場でシミュレーションを回し、確かなデータを今から貯めていくこと。それが、この新しい活用への一番の近道になります。

ところが、粉体は実験でも扱いづらく
シミュレーションを「完全に現場で使いこなす」ハードルが高い

とはいえ、粉体シミュレーションは他の解析ほど普及していないのが実情です。構造解析や流体解析は、昔から多くの企業の設計プロセスに定着し、情報も手に入りやすくなっています。一方、粉体解析はまだ本格的に取り組む企業が増えてきた段階です。

というのも、粉体には流体でいうナビエ・ストークス方程式のような「これ1つでマクロな挙動を記述できる」統一的な支配方程式がありません。粒子1つ1つの運動はニュートンの運動方程式で解けるのですが、それを粉体全体の流れとして統一的に記述する理論は、確立していないのです。

そのため、特に粉体が絡む現場独特の課題かもしれませんが、製薬、電池、食品、粉体が絡む機械メーカーの業界でお会いする方の中には「どうして解決できているかはよくわかってないけど、実験で(なんとか)解決してきた」という声が少なくありません。
現場で活用しようとすると、たいてい次の4つの不安にぶつかります。

  • 時間・コストへの懸念:計算に時間がかかり、実務のスピードに間に合わないのでは?
  • 現象再現への不安:そもそも複雑な粉体現象を、どこまでシミュレーションで再現できるのか?
  • 社内に相談相手がいない:導入を進めても周囲の理解が得られず、技術的に相談できる人もいない
  • 成果の出し方がわからない:解析結果を、どう設計現場にフィードバックすれば成果につながるのか?

裏を返せば、この4つをクリアできれば、粉体シミュレーションは現場の強力な武器になるのではないでしょうか。

粉体シミュレーションを現場で活用する2つの方法

では具体的にどう使えばいいのか。様々なお客様の活用支援をする中で、活用パターンは、大きく開発プロセスの「後工程」と「前工程」 の2つに分けられるのではないかと考えております。

方法①:後工程で使う
── 製造トラブルの「根本原因」を突き止める

製造や品質検査で発生したトラブルへの対応です。従来は実験を何度も何度も繰り返し、経験的に対処してきました。しかしそれでは先に述べましたように「なぜ起きたのか」の根拠や理由まではわからないことが多いものです。

ここで実験とシミュレーションを併用すると、実験では見えない装置内部の様子や、一粒ごとの動きを可視化し、現象に「根拠」を添えることができます。結果として、その場しのぎではない根本的な解決につながります。

たとえば、粉を運ぶ途中で粒径の違いによって粉が分離してしまう「偏析」トラブル。
どの要素が偏析に効いているのかをシミュレーションで切り分けることで、原因の理解が深まり、対策の精度が上がります。さらに定量的なデータを貯めることで社内ナレッジを蓄積することができるのです。
(具体的な企業事例は、後述の資料で紹介しています。)

方法②:前工程で使う
── 実験試作の前に「あたり」をつけて実験回数を減らす

こちらは、設計・検討段階での活用です。試作をつくる前に、シミュレーション上で装置形状や運転条件をいくつも比較し、有望な案だけに絞り込む(スクリーニングする) 使い方です。

これにより、試作・実験の回数そのものを減らせます。試作にかかる材料費やライン停止コスト、そして開発期間を大きく圧縮できるケースもあります。実際に、試作・実験の回数を減らし、開発期間を数か月から大幅に短縮できた事例もあります。お客様の中には工場を止める期間が少なくなったことでこれまでかかっていたコストを3分の1にまで削減できたといったような成果を出されていることもございます。
(具体的な企業事例は、資料に掲載しています。)

大前提:シミュレーションは必ずしも実験の「代替」ではない

ここで誤解しがちなポイントを1つ。シミュレーションは必ずしも実験の置き換えではありません。
両者には得意・不得意があります。

実験は、外乱も含めた「実際の現象」そのものを検証できるのが強みです。一方で、試作にコストと時間がかかり、さらに測定値のばらつきを見極めるために何度か繰り返して平均や分散をとる必要もあります。
一方、シミュレーション(CAE)は、試作の前に検討でき、同じ条件なら何度でも同じ結果が得られる(再現性が高い)のが強みです。ただし、これはあくまで“理想的な環境”の模擬です。実現象をそのまま映しているわけではなく、計算しやすく・早く終わるように、扱いやすい形にモデル化して組み込んでいることもあります。
だからこそ、両者を用途に応じて使い分ける、もしくは併用する ことで、開発プロセスそのものを変えます。

シミュレーションを用いて実験回数を減らすことで、これまで実験に割いていた時間を、「人が本質的な設計を考える時間」 に振り向けられます。空いたリソースを新製品開発や研究に回す──これも現場活用の大きなメリットです。

私たちはこの「現場活用」をどう支えるか

先ほどの4つの不安に対して、私たち構造計画研究所で開発している粉体・流体シミュレーションソフトウェア iGRAF(アイグラフ) は次のように応えます。

  • 時間・コストへの不安には「高速化」で
    粒子をまとめて扱う「粗視化モデル」を搭載し、実現象の傾向をを保ちながら計算を大幅に高速化します。粒子数が減る分、計算時間は大きく短縮されます。
  • 現象再現の不安には「最先端の物理モデル」で
    球体だけでなく楕円体・自由形状の粒子、付着力(ファンデルワールス力・液架橋力)、さらに粉体と流体の連成(2相流・3相流)まで、現場で問題になる複雑な現象を再現できます。
  • 相談相手の不安には「伴走サポート」で
    検討中の体験セミナー&1か月トライアル、導入後の技術的なサポートまで、専門エンジニアが一貫して伴走します。「社内に詳しい人がいない」を外部から補える体制です。
  • 成果の不安には「受託解析」で
    実際の装置や機器での粉体挙動を弊社:構造計画研究所の専門エンジニアが受託で解析します。現場のヒアリングから解析、結果の評価までを一貫して実施。「実現象をきちんと再現できているのか」「このシミュレーションで社内にどんな成果が出るのか」を、分かりやすくお伝えします。

iGRAFを開発する私たち構造計画研究所は、20年以上・延べ1,500社以上へのCAE販売実績を持ち、粉体シミュレーションの専門家である東京大学・酒井幹夫教授の技術支援も受けています。「はじめての粉体解析」でも安心して踏み出せる環境が整っており、実際に多くのシミュレーション未経験企業の導入をご支援してまいりました。

本記事のまとめ

いかがでしたでしょうか。この記事では、そもそも粉体シミュレーションって現場でどうやって活用すればいいの?といった疑問にお答えるべく2つの活用方法の”考え方”をご紹介しました。この詳細に加え、実際の企業での導入事例(数値付き) や、iGRAFの技術・サポート体制を1冊にまとめました。
「自社の現場で粉体シミュレーションがどう使えるか」を検討する材料として、また社内共有の資料としてもご活用いただけます。

粉体シミュレーション現場活用ガイド

☑粉体シミュレーションの導入を検討中の方
☑導入したが活用しきれていない方

粉体工程は複雑であるため、熟練者の勘や経験に頼りがちです。実現場で粉体シミュレーションというツールが実際にどう運用し活用されているかをこの資料にまとめました。

※製品導入のご相談、体験セミナーのご案内も承っています。お気軽にお問い合わせください。

参考文献

  1. Cundall, P. A., & Strack, O. D. L. (1979). A discrete numerical model for granular assemblies. Géotechnique, 29(1), 47–65. https://doi.org/10.1680/geot.1979.29.1.47